リーガルエッセイ

公開 2020.12.16 更新 2021.07.18

執行猶予期間中に万引き 判決は再び執行猶予判決

記事を執筆した弁護士
Authense法律事務所
弁護士 
(第二東京弁護士会)
慶應義塾大学法学部法律学科卒業。司法試験に合格後、検察官任官。約6年間にわたり、東京地検、大阪地検、千葉地検、静岡地検などで捜査、公判を数多く担当。検察官退官後は、弁護士にキャリアチェンジ。現在は、刑事事件、離婚等家事事件、一般民事事件を担当するとともに、上場会社の社外役員を務める。令和2年3月には、CFE(公認不正検査士)に認定。メディア取材にも積極的に対応している。
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窃盗症とは?

先日、窃盗罪で執行猶予付きの判決を言い渡された人が、その執行猶予期間中にまた万引きをしたということで裁判になっていた事件で、裁判官が、保護観察付き執行猶予判決を言い渡したと報じられました。
先日こちらのエッセイでもとりあげましたが執行猶予期間中に同種の犯行に及んでしまえば、今度こそ、刑務所に行かなければならない、となることが多いです。
再度の執行猶予となるためには、言い渡された刑が1年以下、そして、「情状に特に酌量すべきものがあるとき」という要件を満たす必要があります。
経験上、同種の犯行に及んでいるときに、この「情状に特に酌量すべきものがあるとき」を満たすことはなかなかありません。
にもかかわらず、今回報じられた件では再度の執行猶予判決。
報道によれば、その背景には、摂食障害を背景に衝動を制御できない傾向があり、治療を受けていること、反省していることが事情としてあったとのことです。
なお、弁護人は、犯行には「窃盗症と摂食障害の影響」があったとして、責任能力に問題があった旨主張したとも報じられています。
この件に関しては、具体的な事実関係がわかりませんので、直接のコメントを控えますが、一般的な話として、万引き事件があった際、弁護人が、このように、被疑者、被告人の「窃盗症」を主張して不起訴を求めたり、起訴された場合にも刑の減軽を求めたりすることがあります。

窃盗症というのは、クレプトマニア、窃盗癖とも呼ばれる精神疾患です。
窃盗症である場合、自分では、その物を欲しいと思っているわけではないのに盗んでしまうという特徴があるといわれています。
その物の経済的価値を動機として盗みに及ぶのでなく、衝動から盗みに及んでしまい、これを繰り返してしまうのです。
ですので、万引き事件を捜査していて、被疑者が、その物を買うのに十分なお金を当時持ち合わせていた場合、そして、犯行の動機を調べても、その物が必要だったわけでも、どこかに売ってお金にしようとしたわけでもないという場合、さらに、そのような犯行をほかにも繰り返してしまっていたような場合には、窃盗症を念頭に捜査し、処分を検討することになると思います。
では、窃盗症であると認められた場合には、起訴されないのかというとそうともいえません。
そもそも、窃盗症であると認められるかどうか、というところにハードルがあります。
そして、仮に窃盗症であると認められた場合、それが初犯であって、再犯防止策がとられている場合は不起訴になる可能性はあると思います。
再犯防止策としては、専門病院への通院や家族のサポートが考えられます。

でも、何度も万引きしたという余罪が明らかになっていたり、過去に同種前科があったりという場合には、起訴される可能性があります。
また、起訴された場合でも、窃盗症なら無罪、というわけではありません。
窃盗症であることが明らかになった場合、それが刑罰を軽くする事情として考慮される場合があるとはいえます。
ただ、その場合も、窃盗症であれば当然に刑が軽くなる、というわけではありません。
窃盗症であることに加え、これによる再犯を防止するために治療するとか周囲の理解を得て再犯防止策を具体的に講じるとかそのようなことが認められて初めて刑を軽くする事情として考慮されるように思います。
もちろん、いくらサポート体制を整えても、自分が、更生の意欲をもって行動することも大事です。
過去の裁判例でも、窃盗症の診断を受けた被告人が、執行猶予付き判決が言い渡された後、家族会議で、今後は一人では買い物に行かないとか、一人で行くときには家族に行き先を伝え、大きなバッグなどを持っていかないなどの万引きを防止するための具体的な方策が決められていたのに、それを一切守らずに買い物に出かけた結果、万引きに及んでしまったという事実が認められた事例で、万引き行為に及んだその時点では窃盗症により自分の行動を制御することが難しい精神状態にあったとしても、もっと前の段階で家族との約束を守る行動をとるべきだったのにこれを破って、出かけることを思いとどまらなかったのだから、犯行は全体として被告人の主体的な意思に基づくものだと評価され、再度の執行猶予が付かなかったというものがあります。

窃盗症の診断を受けているかたが万引きをしてしまったという場合、ご本人はもちろん、周囲で支えるご家族も、今後いったいどうしたらいいのか、警察、検察段階でできること、裁判でできることは何があるのか、ご不安だと思います。
ぜひ一度弁護士にご相談ください。

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