リーガルエッセイ

公開 2020.10.26 更新 2021.07.18

飲酒運転同乗による書類送検

記事を執筆した弁護士
Authense法律事務所
弁護士 
(第二東京弁護士会)
慶應義塾大学法学部法律学科卒業。司法試験に合格後、検察官任官。約6年間にわたり、東京地検、大阪地検、千葉地検、静岡地検などで捜査、公判を数多く担当。検察官退官後は、弁護士にキャリアチェンジ。現在は、刑事事件、離婚等家事事件、一般民事事件を担当するとともに、上場会社の社外役員を務める。令和2年3月には、CFE(公認不正検査士)に認定。メディア取材にも積極的に対応している。
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車に同乗して書類送検?

大学生5人が乗車していた軽自動車の単独事故により、同乗していたかた1人が亡くなり、運転者と3人の同乗者は重軽傷を負ったという事件。
飲酒運転であったとのことで、運転者は、危険運転致死傷罪で起訴されているそうですが、運転者以外の同乗者について、道路交通法違反の被疑事実で検察庁に書類送検されたと報じられました。
同乗者たちは、運転していません。
それなのに、道路交通法違反として書類送検されているのはなぜかということをとりあげてみます。

飲酒運転同乗

道路交通法では、車の運転者が酒気を帯びていることを知りながら、その運転者に対し、車を運転して自分を送るように要求し、または依頼して、その運転者が飲酒運転する車に乗ってはならないと定められています。
これに違反した場合の法定刑は、3年以下の懲役または50万円以下の罰金です。
冒頭で挙げた件は、これに該当するとして書類送検されたと報じられています。
道路交通法は、なぜ、飲酒運転をした人を処罰するにとどまらず、その車に同乗した人をも処罰の対象に加えているのか?
わざわざ独立した犯罪にしなくても、飲酒運転者の車に同乗した場合は、飲酒運転を幇助(ほうじょ)、つまり運転者が飲酒運転する気持ちをより強いものにしたなどとして助けたとして幇助犯が成立すると考える余地があります。
にもかかわらず、独立した犯罪としたのは、飲酒運転を根絶するためです。
運転者が酒気を帯びていることを知りながら車を運転して自分を送るように要求したり依頼したりする行為は、飲酒運転を助ける幇助犯の中でもとくに悪質です。
単に乗り込むという行為に比べて、運転者が飲酒運転しようという意思をより強く固める行為だといえますし、運転者が同乗者から頼まれて車を運転して送ることになれば、通常、回り道をすることもあり得、飲酒運転する距離、時間が長くなり、飲酒運転の危険性がより高まるともいえるでしょう。
そのような、より悪質な行為を、独立した犯罪として定めたのです。
過去の裁判で、「自分を送るように依頼して」という要件を満たすか、という点が問題になった事例があります。
はっきりと「私の家まで車を運転して送って。お願い」と依頼があるならわかりやすいですよね。
でも、実際、そんなわかりやすく依頼が認められるケースばかりではありません。
はっきりとした依頼の言葉が認められないときに、「黙示の依頼」があるといえ、この依頼の要件を満たすか、という点が問題になることがあるのです。
過去の裁判では、事件の日より前から複数回にわたり、運転者と一緒に飲酒しては、帰りは運転者かその交際相手のどちらかが運転する車に同乗して家まで送り届けてもらっていたという事実が認められており、そのようないきさつも考慮され、この事件の日に運転者の車に乗るにあたって、はっきりと送ってほしいと言わなかったとしても、黙示の依頼が認められると判断されています。
今回報じられた件は、今後、検察庁で捜査されることになります。
同乗者たちが運転者に「要求」「依頼」したと評価できる事実があったといえるのかという点についても慎重な捜査がなされるものと思います。

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