リーガルエッセイ

公開 2020.07.06 更新 2021.11.01

「俺はコロナだ」で有罪判決

記事を執筆した弁護士
Authense法律事務所
弁護士 
(第二東京弁護士会)
慶應義塾大学法学部法律学科卒業。司法試験に合格後、検察官任官。約6年間にわたり、東京地検、大阪地検、千葉地検、静岡地検などで捜査、公判を数多く担当。検察官退官後は、弁護士にキャリアチェンジ。現在は、刑事事件、離婚等家事事件、一般民事事件を担当するとともに、上場会社の社外役員を務める。令和2年3月には、CFE(公認不正検査士)に認定。メディア取材にも積極的に対応している。
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先日、男性が、ある店舗で、咳ばらいをしながら、店員のかたに「俺はコロナ陽性だ」などと言ったことについて、威力業務妨害罪が成立するとして執行猶予付きの懲役刑が言い渡されたと報じられました。

今回の件のみならず、全国的に、自分が新型コロナウイルスに感染していると周囲の人に告げて脅かすなどした事件がたびたび報じられています。
その都度、「威力業務妨害罪」という言葉を耳にしたのではないでしょうか。

威力業務妨害罪というのは、人が自由な意思で決めたり、行動したりすることを押さえつけるような程度の勢力で人の業務を妨害することで成立します。
(もう少し正確に言うと、実際に業務を妨害する必要はなく、妨害される危険が発生すれば成立します。)

先日、ある会社に対し爆破予告をしたとして、威力業務妨害罪などで逮捕という事件が報じられました。
爆破予告を受けた会社は、通常、会社のどこかに爆弾がしかけられたのではないかと考え、その日は急遽会社を閉鎖し、警察に通報して爆弾を探してもらったり、その間、会社を閉めるのであれば、取引先など対外的な対応も迫られるなどするでしょう。
これにより、会社の業務はストップしたり、通常どおり行えないという事態に陥ります。
このような事態を引き起こすような行為を威力業務妨害罪として処罰しているのです。

今回、咳ばらいをしながら、店員に「俺はコロナ」と告げた行為について、裁判官は、判決で「新型コロナウイルスが急速に感染拡大し、未曽有の混乱や不安に直面していた社会情勢に鑑みれば、発言の影響は想像できた」と説明したとのこと。
たしかに、事件が起きた4月と言えば、緊急事態宣言が発令された時期です。
みなが外出を控え、自粛生活が始まったものの、完全に店を閉めるわけにもいかない中で、生活に必要な物を提供するため、店員のかたたちは、感染不安を感じつつ感染防止対策を行いながら、手探りで対応していた時期でしたよね。
消毒剤なども品薄になり、感染防止策をとるのも大変なことだったと思います。
そんな中でのこの発言です。

こんな発言をすれば、

  • 店員のかたはパニックになるだろう
  • 店にいたお客様を全員外に出すことになるだろう
  • (発言した人の感染の真偽はすぐには分からなかっただろうから)店舗内を全館消毒する必要に迫られるかもしれない
  • そのような対応で、店をしばらく休業することになるだろう
  • 対応した店員のかたやその周囲にいたかたは、念のため検査を受けたりする必要に迫られ、しばらく業務に戻れないだろう

日々コロナの感染拡大報道一色というさなか、そのような事態を引き起こすような影響力を持つ発言だということは、だれしも認識できたはずですよね。
ですので、裁判官がこのような判断をしたことはもっともだと思います。

「おれはインフルだ」だったら有罪?

今回、ある報道には、当時の発言の内容について、「俺はインフルだ。違った、コロナだ」と発言したと報じているものがありました。
これを見て、もし、単に、「俺はインフルだ」と発言していたとしたら、それが威力業務妨害罪になるのか?というのは、少し評価が分かれる可能性があるなと思いました。
というのも、インフルエンザは、たしかに重篤化した場合のことを考えると決して軽視できない感染症ですが、今のコロナと違い、予防接種や治療薬が一応存在するという見方もできると思います。
その意味で、「俺はインフルだ」と告げられたとしたら、店側も、コロナとは少し違った受け止め方をする可能性はありますよね。
そう考えていくと、今は、コロナはまだまだ未知のウイルスで、予防接種や治療法も確立していないと見られていて、それを踏まえると、「俺はコロナ」発言は威力業務妨害罪に該当するけれど、今後、コロナが未知のウイルスでなく、治療法等も確立していけば、犯罪の成否についても判断が変わっていくのかもしれないなと思いました。
もちろん、そのような社会情勢になれば、そもそも、「俺はコロナ」などと発言する人もいなくなっているのだと思いますが。

新規感染者数が日々増加していると報じられる中、みなが、まだまだ感染リスクを不安に思いながら生活していると思います。
そのような中、人をさらなる不安や混乱に陥れるような犯罪が起きなくなることを心から願っています。

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