リーガルエッセイ

公開 2020.06.25 更新 2021.08.13

刑事で不起訴なのに、民事で賠償責任?

記事を執筆した弁護士
Authense法律事務所
弁護士 
(第二東京弁護士会)
慶應義塾大学法学部法律学科卒業。司法試験に合格後、検察官任官。約6年間にわたり、東京地検、大阪地検、千葉地検、静岡地検などで捜査、公判を数多く担当。検察官退官後は、弁護士にキャリアチェンジ。現在は、刑事事件、離婚等家事事件、一般民事事件を担当するとともに、上場会社の社外役員を務める。令和2年3月には、CFE(公認不正検査士)に認定。メディア取材にも積極的に対応している。
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6年前に車にはねられて女性がお亡くなりになる事故が起きた件について、刑事事件と民事事件とで判断がわかれたと報じられました。
当時、ある女性が、被疑者として捜査されたものの、その女性は「自分はひいていない」と関与を否定し、検察は、嫌疑不十分であると判断して不起訴にしたとのこと。
一方、お亡くなりになった女性のご遺族が、不起訴処分となった女性を被告として民事裁判を起こし、損害賠償請求をしたところ、先日、裁判官が、「被害者をはねた車を運転していたと認めるのが相当」と判断して、刑事事件では不起訴となった被告に4700万円あまりの賠償責任を認めたと報じられました。
つまり、同じ事件に関し、ある人物が事故の加害者であるのか否かという点の判断が、刑事と民事でわかれた、ということになります。
事実はひとつなのに、刑事と民事で、ある人を加害者ということができないと判断したり、加害者であると判断したりということがあり得るのか?疑問に思われるかたもいるのではないでしょうか?

刑事と民事で判断がわかれることもある

刑事手続きでは、検察が、起訴するだけの証拠がないと判断して不起訴としながらも、民事裁判では、検察が不起訴とした人を加害者であると判断して責任を認めるということはあり得ることで、過去にもそのような例はあります。
なぜこのようなことが起きるかというと、刑事と民事では、事実を認定するためのハードルの高さに差があるからなのです。
刑事手続きは、被告人が罪を犯したのかどうかという点について、少しでも疑わしい点があれば無罪にしなければなりません。
ですので、検察も、被疑者が犯人であるという点に疑わしい点があれば、起訴しません。
ある人が罪を犯したとして刑罰を科すという手続きに誤りの余地が少しでもあってはいけないからです。
一方で、民事裁判では、「高度の蓋然性」があれば事実の証明として足りるとされています。
「高度の蓋然性」というのは「十中八九、間違いない」というレベルだと表現されることもあります。
言葉にすると、刑事と民事のハードルの違いがなかなかイメージしにくいですよね。
でも、検察官として多くの刑事事件を扱い、また弁護士として民事事件を担当している今、ある人が犯人(加害者)かどうかという判断に関し、刑事手続きの認定のハードルは、民事裁判よりも高いという実感があります。

法律では、検察が不起訴と判断するに至った捜査記録の開示を認める手続きがあり、後に行われる民事裁判で、開示された不起訴記録が証拠として提出されるということはよくあります。
不起訴記録が民事裁判の証拠として提出された場合、もちろん、民事裁判の証拠として判断材料になりますが、検察が不起訴と判断したこと自体が民事裁判の結果を拘束するものではなく、民事裁判では異なる結論となることは何ら問題なく、あり得ることです。

そして、検察が、嫌疑不十分であるとして不起訴にした件について、被害者やご遺族が後に民事裁判を起こし、そこで、不起訴になった人の賠償責任が認められた場合、被害者やそのご遺族としては、民事裁判の結果を踏まえ、改めて検察に起訴を検討してほしいと考えるのではないかと思います。
そのようなとき、公訴時効(法律で、犯罪が終わってから一定期間が過ぎると起訴することができなくなるとされています)の期間内であれば、被害者、ご遺族は、検察の不起訴処分を不服であるとして検察審査会に申立てをすることが考えられます。
民事裁判で被告が加害者であると認定されたことが、刑事手続きにおける判断を拘束するわけではないですし、そもそも認定のためのハードルが違うので、民事裁判の結果がそのまま検察の判断を変えるわけではないのですが、検察審査会の判断次第では、検察は再捜査をすることになりますので、一定の意義はあるといえるでしょう。

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