リーガルエッセイ

公開 2020.06.17 更新 2021.08.13

GPSを取り付けて動静監視「見張り」にあたる

記事を執筆した弁護士
Authense法律事務所
弁護士 
(第二東京弁護士会)
慶應義塾大学法学部法律学科卒業。司法試験に合格後、検察官任官。約6年間にわたり、東京地検、大阪地検、千葉地検、静岡地検などで捜査、公判を数多く担当。検察官退官後は、弁護士にキャリアチェンジ。現在は、刑事事件、離婚等家事事件、一般民事事件を担当するとともに、上場会社の社外役員を務める。令和2年3月には、CFE(公認不正検査士)に認定。メディア取材にも積極的に対応している。
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先日、ある2つの刑事事件について、7月30日に最高裁判所で判決が言い渡されることになったと報じられました。
その2つの刑事事件では、1審・2審で判断が分かれている点があり、この点について、最高裁判所の判断が注目されています。
判断が分かれている点というのは、「妻や元交際相手の車にGPSを取り付け、その動静を監視した行為が、ストーカー規制法でいう『見張り』にあたるのか」という点です。

ストーカー規制法違反

ストーカー規制法違反では、特定の者に対する恋愛感情その他の好意の感情またはそれが満たされなかったことに対する怨恨の感情を充足する目的で、特定の者等にしてはいけない行為を挙げています。

してはいけない行為のひとつに、「住居、勤務先、学校その他その通常所在する場所の付近において見張りをし」という行為があります。
今回問題になっているのは、相手の車にGPSを取り付け、その動静を監視することが、この「見張り」に当たるのか、という点なのです。

裁判所の判断

「見張る」という言葉を聞くと、「ここにいつも相手がいる」と思われる場所に実際に行って、しばらく、相手の出入りなど動きを監視する様子を思い浮かべませんか?
でも、人によっては、自分のSNS投稿を頻繁にチェックされている状況を「あの人は私の行動を見張っている」と表現する人もいるのではないでしょうか?
「見張る」という言葉、いろいろな解釈ができそうですよね。

今回とりあげた、GPSを車に取り付け、動静を監視する行為が「見張り」に当たるか、という点も、1審・2審で結論がわかれています。
1審は、解釈によって処罰の範囲を広げることで、GPS取り付けとその後の動静監視行為を一体的に見て「見張り」に当たると判断しています。
2審は、1審で行ったような、罰せられる範囲を不明確にするような拡張解釈をすべきでないとしています。

もう少し具体的に見てみます。

1審では、「見張り」とは、主に感覚器官(つまり、「目で見る」などです)で動静を観察する行為をいうものの、それに限定されるわけではなく、電子機器等(つまり、今回の場合GPSですね)を利用して相手の情報を取得することを通じて動静を把握する行為も含まれるとしています。
そして、条文が、「その通常所在する場所の付近において見張りをし」となっている点について、GPSでの位置確認は車から離れた場所でされていて、「付近」とはいえないとしながらも、GPSの取り付け行為は相手の通常所在する場所の付近でなされたのだから、それと一体的に評価して、付近で見張りをしたと評価できるとしているのです。

これに対し、2審では、そもそも、刑罰法規の解釈というものは、文言の枠内で解釈できる範囲内ですべきで、文言を離れて処罰を拡大していくべきではないといっています。
その上で、この見張り行為の禁止にあたるといえるには、行為者が、相手の「その通常所在する場所の付近」にいるという場所的要件を満たすことが必要で、見張りは行為者の感覚器官(「目で見る」など)を通して観察されることが前提となっているとしています。
1審で、GPSの取り付け行為とその後の位置確認とを一体的に評価した点も、この2つの行為のうち、後者の位置確認こそが相手の動静把握の中心行為なのに、単なる準備行為であるGPSの取り付け行為とくっつけることで一体として場所的要件を満たすという考え方は許される解釈ではないとしています。

この2審の判断の中に、「罪刑法定主義の要請」という説明が出てきます。
罪刑法定主義というのは、簡単に言うと、どんな行為が犯罪で、どんな刑罰が科せられるか、ということはあらかじめ法律で定めておかなければならないという考え方です。
法学部に入学した大学生が憲法や刑法の授業の中で必ず学ぶ大事な原則です。
自分が社会生活を送る上で、こういうことをしたら犯罪になりますよ、ということがあらかじめ決められていないのに、事後的に、「あなたのしたことは犯罪でしたから、処罰します」と言われたら?と考えてみてください。
おそろしいことですよね。
犯罪なのかどうかということは、誰が見てもはっきりとわかる状態であることが必要です。
2審は、1審の手法で解釈すると、ここからここまでが犯罪、という明確なものが見えないままに事後的に解釈で処罰を広げることになり、このことが罪刑法定主義の要請に反する、と考えているのです。

最高裁判所の判断が注目されるところです。

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