リーガルエッセイ

公開 2021.05.20 更新 2021.07.18

地方自治法違反で逮捕 愛知県知事のリコール運動を巡る署名偽造問題について

記事を執筆した弁護士
Authense法律事務所
弁護士 
(第二東京弁護士会)
慶應義塾大学法学部法律学科卒業。司法試験に合格後、検察官任官。約6年間にわたり、東京地検、大阪地検、千葉地検、静岡地検などで捜査、公判を数多く担当。検察官退官後は、弁護士にキャリアチェンジ。現在は、刑事事件、離婚等家事事件、一般民事事件を担当するとともに、上場会社の社外役員を務める。令和2年3月には、CFE(公認不正検査士)に認定。メディア取材にも積極的に対応している。
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知事のリコール署名偽造の疑い 地方自治法違反で逮捕

先日、こちらのエッセイで、愛知県知事のリコールを求める署名に関し、提出された署名の8割以上が有効と認められないとの調査結果がまとまったと報じられたことを取り上げました。
署名偽造がなされていたとすると、リコールにあたって署名を偽造する行為については、地方自治法で3年以下の懲役、もしくは禁錮または50万円以下の罰金という法定刑が定められた犯罪になります。

その後の報道で、リコールにあたっては、アルバイト募集が行われ、そのアルバイトにより署名偽造が行われたとか、そのアルバイト募集に関わったのは広告関連会社で、その会社社長が警察の取調べを受けているとか、その会社は、リコール運動の事務局からアルバイト募集を依頼されたと周囲に説明しているが、一方の事務局長は、広告関連会社には署名集めを依頼しただけで、計画としても、作った名簿に従って、一人一人本人を訪ねて実際に署名を求めるというものだったと説明しているとか、そのような内容が報じられていました。
報道だけでは、「アルバイト募集を依頼された」というのが、何のためのアルバイト募集と説明を受けていたのか正確に読み取れなかったので、この事案から離れて少し考えてみたいと思います。

Aさんが「私は、Bさんから、名簿をもとに署名を偽造するためのアルバイト募集を頼まれた」と供述しているとします。
Bさんは「私がAさんに仕事を頼んだのは事実。でも頼んだのは署名偽造をするアルバイト募集などではなくて、署名を収集すること」と供述しているとします。
Aさんの話が信用できるとしたら、BさんはAさんに署名偽造の指示をしていたことになる。
Bさんの話が信用できるとしたら、AさんがBさんの指示を破って、勝手に署名偽造を企てたことになる。
こんなとき、どちらの話が信用できるのかをどうやって判断するのか?
証拠を見て、聞いて、何が事実なのかを認定するというと、いかにも専門家の仕事で特殊なことをするかのように見えるかもしれません。
でも、事実認定って、そんな特殊なことではなくて、実は、だれもが日常生活を送る上で意識せずに経験していること。
たとえば、人が話をしているのを聞いて、「この話は信用できないな。話半分で聞いておこう」と思うことありませんか?
どんなときにそう思うかというと、たとえば、ある一つの出来事について話しているはずなのに、日によって説明がころころ変わるな、とか、言っている内容がほわっとしていて、本当にこの人その場にいたのかな、経験したんじゃなくて、想像で物言ってるんじゃないかなとか、その人以外の複数の人の話と食い違っているなとか、その人の話すある場面については動画が残っていて、動画に写された様子と話の内容とが食い違っているなとか、前にわかりやすいうそをつかれたことがあるから根本的に信用できないなとか。
捜査機関による事実認定も全く同じで、話の内容が具体性を欠いていて、作り話なのではないか、とか、供述に説明のつかない変遷があるとか、ほかの証拠との整合性とかそのようなことを検討し、供述の信用性というものを評価していくことになります。

今回報じられている件、まだ関係者がどう供述しているのか明確になっていませんが、事実を解明するためには、リコール運動の事務局と広告関連会社の具体的なやりとりについて、そのやりとりに関わったすべての人から話を聞くこと、メールなどの履歴の確認、依頼にあたって発注書が渡っていたのだとしたら、書面上読み取れる発注内容の特定、依頼にあたって渡った金額、お金の流れ、名簿が渡っていたのだとしたら、いかなる説明のもとでだれからだれに渡されたのか、依頼後の業務状況の進捗確認状況などをひとつひとつ明らかにしていく必要があると思います。
また関わった人が複数いるとすれば、その共犯者間での主従関係を明らかにする必要もあるでしょう。
今後の捜査に注目します。

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