リーガルエッセイ

公開 2021.05.13 更新 2021.07.18

現場に残された足跡と、履いていた靴が一致したら手堅い証拠?

記事を執筆した弁護士
Authense法律事務所
弁護士 
(第二東京弁護士会)
慶應義塾大学法学部法律学科卒業。司法試験に合格後、検察官任官。約6年間にわたり、東京地検、大阪地検、千葉地検、静岡地検などで捜査、公判を数多く担当。検察官退官後は、弁護士にキャリアチェンジ。現在は、刑事事件、離婚等家事事件、一般民事事件を担当するとともに、上場会社の社外役員を務める。令和2年3月には、CFE(公認不正検査士)に認定。メディア取材にも積極的に対応している。
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足跡痕

先日、茨城県に住む家族4人が殺傷の被害に遭った事件で、ご夫婦を殺害したという事実で男性が逮捕されたと報じられました。
報道によると、男性は否認しているとのこと。
今後、この男性が犯人であるのか、という点を捜査で明らかにしていくことになります。
ところで、この事件については、「捜査関係者への取材でわかった」としていろいろなことが報じられています。
そのうちの一つが現場に残された足跡について。
ちなみに、刑事ドラマでは、現場に残された足跡のことを「げそこん」と呼んでいるのをよく聞きますが、私が検察官をしていたときに警察官が足跡のことを「げそこん」と呼んでいるのを聞いたことは一度もありませんでした。
「あしあと」と言ったり、「そくせきこん」と言ったりすることが多かったように思います。
報道では、現場には海外の有名ブランドのものだというスニーカーによる足跡が残されており、これと同じ種類のスニーカーを事件後に男性が履いていたのが確認されたと報じる記事もあれば、現場に残されていたのはレインブーツの足跡であり、事件前に、逮捕された男性がレインブーツをインターネットで購入しており、またその購入したレインブーツと現場の足跡とがほぼ一致したと報じる記事もあり、現時点では確かなことがわかりません。
ただ、現場にはご家族以外の足跡が残されており、その足跡と逮捕された男性とは何らかのつながりがありそうだ、ということは共通する情報ですね。
これを見て、「ブーツにしてもスニーカーにしても、要は、現場に残された足跡と、男性が買った、または、履いていたことが確認された靴が一致したなら、手堅い証拠だな」と思われるかもしれません。
試しに、この状況を知人に伝え、どう思うか聞いてみたのですが、「自分が裁判員なら、心証はクロだな」と言っていました。
たしかに、人の供述などとは違い、客観的な証拠だから、心証に与える影響は大きいかもしれません。
でも、実際は、そんな簡単な話ではありません。
報道にある、「事件後男性が履いていることが確認された」とはいったいどういう状況なのか?
だれかが見たのか?
想像してみてください。
人が普段相手の履いている靴の種類にどの程度注意を払っているか?それを記憶にとどめているか?
たしかに見たというなら、その目撃証言は信用できるもの?
目撃証言を引き出すにあたり、捜査機関が現場に残された足跡と同じ種類のスニーカーを目撃者に見せて、「あなたが見たのはこれと同じ靴ですか?」と聞いたのであれば、一般的に、目撃者の供述を誘導し、偏見を与えるような聞き方であるとしてこうして得られた目撃証言の信用性はあまり高く評価できないかもしれません。
仮に、現場に残された足跡から推測される靴と同じ種類の靴を男性が持っていたとして、その種類の靴がどの程度流通しているかによっても評価は全く違ってくるでしょう。
たとえば、日本で1足しか売られていない靴による足跡だと認められるケースで、まさにその靴を被疑者が持っていたとなれば別ですが、量販店で大量に売られている靴ということになれば、被疑者との結びつきは薄くなります。
しかも、仮に、その足跡と被疑者との線がつながったとしても、まだハードルがあります。
その足跡は、事件の時についたものといえるのか?という点です。
たとえば、被疑者が、事件現場周辺に住んでいて、その場所を、何か他の用件でよく通りますよ、という場合や、被害者と面識があり、被害者方には日常的に出入りしていた関係でしたよ、という場合などは、被害者の敷地内に被疑者の足跡が残されているということは、被疑者が犯人であることにダイレクトにつながるわけではありません。
そもそも、現場に残された足跡と被疑者の所持している靴との一致という点もそう簡単に認められることではありません。
足跡は、刑事ドラマで見るように、常にはっきりと残っているわけではありません。
そして、足跡と靴の類似性についても、専門家が鑑定により判断します。
鑑定も、そのまま裁判官の判断材料になるわけではありません。
争いのある事件では、鑑定した専門家が証人として出廷し、証人尋問が行われます。
そして、足跡と靴が一致している、または類似していると判断したこと、その判断の理由が合理的かという点について尋問が繰り広げられ、その判断が信用できるものか、裁判官が評価することになるのです。

報じられている事件では、まだ何が事実なのかわからない状況です。
こんな捜査初期の段階で、捜査情報がぼろぼろと報じられることで真相解明の妨害にならないといいなとも思います。
今後の捜査に注目していきます。

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