リーガルエッセイ

公開 2021.03.03 更新 2021.07.18

2つの事件のニュースを見て思うこと

記事を執筆した弁護士
Authense法律事務所
弁護士 
(第二東京弁護士会)
慶應義塾大学法学部法律学科卒業。司法試験に合格後、検察官任官。約6年間にわたり、東京地検、大阪地検、千葉地検、静岡地検などで捜査、公判を数多く担当。検察官退官後は、弁護士にキャリアチェンジ。現在は、刑事事件、離婚等家事事件、一般民事事件を担当するとともに、上場会社の社外役員を務める。令和2年3月には、CFE(公認不正検査士)に認定。メディア取材にも積極的に対応している。
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家庭内で起きること

今日は、なんだか朝から調子が出ないな、と思っていたら、朝刊を読んでいなかったことに気づきました。
でも、新聞受けには新聞はなく、休刊日だったかなと思ったら、ほかのお宅には届いている様子。
新聞屋さんに問い合わせたら、「お客様が2月いっぱいで新聞を止めてほしいとお手続きされてますよ」とのこと。
自分でやっておきながらすっかり忘れていたのですが、3月に引っ越しを控えているからと、2月いっぱいで新聞を止めてしまったようなのです。
引っ越しは1週間後なので、これから1週間は自宅に新聞が届かない事態に。
ネットでニュースを読める時代ですが、やっぱり私は新聞紙を机いっぱいに広げて記事を読み、いちいち記事に驚いたり怒ったりするたびに手に持っているコーヒーを新聞紙上にこぼしながら記事と向き合う朝が大事な時間になっていたんだなと改めて実感しました。

そんな今日、仕方なく、ネットにニュースを拾いに行ったところ、2つのニュースを見て、胸が痛くなりました。
1つ目は、妻をベランダから転落させ殺害したという被疑事実で夫が逮捕されたというもの。
2つ目は、小学生の子1人と幼い3歳と2歳の子らを巻き添えに父である男性が無理心中を図り、子どもたち3人が死亡したというもの。

いずれも、第一報を報じるもので、詳しい事実関係は今後の捜査により明らかになると思われますので、そもそも真実が何か今はわかりません。
1つ目の事件に関しては、逮捕された夫は、「いつの間にか妻がいなくなった」と自ら110番したとのことで被疑事実も否定しているようです。
妻が転落したと思われるベランダ付近を撮影する防犯カメラ映像が存在し、そこには人が落ちる様子とともに、ベランダに人影が写っていたとか、夫婦の間には離婚の話が出ていたらしいとか、夫は妻が自殺したと供述しているものの、妻の生前の言動や現場の様子からは妻が自殺したとは考え難いのではないかとか報じられています。
夫婦の間には1歳のお子さんがいるということも。
逮捕された夫について殺人罪で起訴されるためには、転落が第三者の行為によるものであること、そして第三者の行為によるものであったとして、その第三者の行為は故意による突き落とし行為と評価できること、さらに、その第三者というのは夫以外ではありえないこと、それらの点が証拠上明らかになる必要があります。
2つ目の事件に関しても、まだ事実はわかりませんが、報道を見る限りでは、男性の量刑が主な争点になっていくのかなと感じます。

でも、私が思ったのは、こんな表面的な今後の捜査の行方などではないのです。
特に1つ目の事件に関しては、夫が関与を否定している状況で事件に関する具体的なコメントをすべきでないとは思っています。
それでもやっぱり思ってしまったのは、家庭内で起きることに外部の人が関わることがいかに困難かということ。
そして、いろいろな問題を抱えながら外との扉が閉じられてしまっている家庭内にいる子どもたちのことを思うと、「家庭内のことはなかなかどうにもならないな」で終わらせてはいけないということ。
1歳のお子さんは、育児を楽しまれていたというお母さんに抱っこされながら、少しずつ歩く練習なんかも始めていたのか。お母さんがお亡くなりになった今、お母さんを思って泣いていないか。
亡くなった9歳のお子さんは、父からの暴力で過去に何度も児童相談所に一時保護されていたとのこと。都度どんな気持ちでおうちに戻ってきていたのか、そして、またどんな気持ちで児童相談所に保護されて、またどんな気持ちでおうちに戻ってきていたのか、そんな繰り返しの末、亡くなるときどんな絶望の中にいたのだろうか。
お亡くなりになった2、3歳のお子さんらは、お父さんとのお出かけに楽しそうにしていた様子だったとの話も。だからこそ、なおさら、亡くなるときどれほどおそろしい気持ちだっただろうか。なにより、まだ2、3歳。

たしかに、家庭内で起きていることについて、外にいる人があれこれ口を出したりすることって実際問題できないですよね。
私も、たとえご近所さんのお宅から毎日のように怒鳴り声が聞こえてきていたとして、それをいったい誰にどうやって伝えればよいのか、そもそも、家庭内のことに外部の人間が口を出していい話なのか、そんなことの判別がつかずに、結局何もできないのではないかなと思います。
仮に警察に通報したとしても、具体的事件となっていない段階で積極的に動くとは考えられません。
それでもやっぱり今自分にできる一歩を見つけなくては。
そう考えていたとき、ふと思いました。
家庭内で問題を起こしている人がいるとして、そのような人は、家庭内での自分の暴力や暴言などが発覚することをおそれ、周囲からの目に敏感になることもあるのではないか。
だとしたら、そのような人に、周囲からの監視の目が光っていると感じさせられたら、もしかして、それが歯止めになることもあるんじゃないか?
また、周囲が常に目をかけているという環境で、それを感じられるような状況だったら、つらい目に遭っている弱い立場にあるかた、子どもたちに、「周囲に助けを求めてみようかな。いつものあの人なら聞いてくれるんじゃないかな」と思ってもらえ、助けの声をあげやすくなることもあるんじゃないか?
じゃ、どうしたら、そういう目になれるか?
小さな小さな一歩ではありますが、ご近所さんとすれ違うときには、単なる会釈でなく、目を合わせて声に出してご挨拶するとか、ご挨拶をちょっとずつ意味のある会話に広げていくとか、そんなことくらいは人見知りの自分にもできるのではないか?
別に周囲の人を疑いの目でみようということではないんです。
やって非難されるようなことではないなら、1個でも得られるかもしれない結果に期待してやってみようというそれだけのこと。
くだらない、子どもが思いつくようなこと、と思いますか?
でも、本当にそうでしょうか?
このようなことをする範囲が広がっていったら、もしかして、これまでなら聞き逃してしまっていた声をくみとることができるかもしれないように私は思ったのですが、意味のないきれいごとでしょうか?
それでも何もやらないでニュースを見て嘆いたり、「国がもっと対策を」とか「児相がもっと踏み込んでくれれば」とか言ったりしているよりは目に見える一歩になるはず。
ちょっとご近所との関係が和やかになって住みやすくなるだけでも避けられるトラブルがあるかもしれませんよね。
そもそも、意識的かどうかは別として、すでに風通しのいい近隣関係を築かれているかたも多いかもしれませんね。
私はついつい人と目を合わさずに黙って会釈をするなどとにかく関係を持たないようにしがちなので、引っ越し先では少しずつ実践してみます。

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