リーガルエッセイ

公開 2021.01.26 更新 2021.07.18

いじめによる自殺 高等裁判所が判断した「過失相殺」とは?

記事を執筆した弁護士
Authense法律事務所
弁護士 
(第二東京弁護士会)
慶應義塾大学法学部法律学科卒業。司法試験に合格後、検察官任官。約6年間にわたり、東京地検、大阪地検、千葉地検、静岡地検などで捜査、公判を数多く担当。検察官退官後は、弁護士にキャリアチェンジ。現在は、刑事事件、離婚等家事事件、一般民事事件を担当するとともに、上場会社の社外役員を務める。令和2年3月には、CFE(公認不正検査士)に認定。メディア取材にも積極的に対応している。
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いじめ訴訟

もう10年前になります。
大津市の中学校で、当時2年生だった被害男子生徒が自殺しましたが、その原因が、元同級生らによるいじめにあったとして、ご遺族が元同級生らに損害賠償を請求する裁判を起こしていました。
1審判決は、元同級生2人による被害男子児童への暴力その他行為をいじめだとし、いじめによって被害男子生徒が自殺することを予見できたと認定。
その上で元同級生に対し、3750万円の賠償を命じたのですが、高等裁判所はその金額を計約400万円と大幅に減額。
このたびの最高裁の判断により、この高裁判決が確定しました。
報道によれば、高裁における減額の理由は、被害男子児童の両親が適切な家庭環境を整えられず、精神的に支えられなかったとの事情を認め、過失相殺したことにあるとのこと。
過失相殺というのは、被害者や被害者側にも過失がある場合に、これを考慮して賠償額を決める制度です。
生じた損害を公平に分担するという発想に基づきます。
私は、このたびの裁判の基礎となる事実関係を正確に把握しておりませんし、訴訟についても傍聴するなどしてきちんと勉強しておりませんし、判決にも直接あたっていませんのであまり具体的なコメントはすべきでないと考えています。
少し一般的な話で考えてみたいと思います。

たしかに、損害について、被害者側の過失を考慮して損害を公平に分担すべき場面はあります。
でも、自殺をして亡くなった子どもの両親が、被害者を家庭で支える環境を作ることができなかったことを過失とし、損害額を大幅に減額するということについては、違和感をぬぐえません。

中学校でいじめがあったとき、被害者の両親がどれだけ子どもの変化に気づくことができるだろうか?
両親が、いじめにより被っている精神的苦痛をケアするための環境を整えることがどこまでできるだろうか?
と思うからです。
あとで第三者が振り返って、もっとこうすることができたのではないかというのは簡単です。
でも、それを、当時の両親に求めることが酷とはいえないか?と思うのです。

もちろん、個別の事案によっては、そう言わざるを得ないケースがあるのかもしれません。
でも、親に悲しい思いをさせたり心配をかけたりしてはいけないと決めている子どもは、学校でどれだけつらい思いをしていても、それを家庭では絶対に見せないようにふるまうこともあるのではないか?
また、親にも、それぞれが置かれたいろいろな状況があるはず。
常に100パーセント子どもの様子に細心の注意を払える立場のかたばかりではないですし、ちょっとした変化を見逃さずに、子どもから、子どもが置かれた状況を聞き出す、そんな専門家のようなことができる場合ばかりではないのではないかと思うのです。
中学生ともなると、子どもも自分の世界を持つようになって、親にオープンにすることばかりではないでしょう。
それもわかって、親としては、これまでと違う様子があっても、子ども自らが学校や友達とかかわる中で成長していくのをあえて陰から見守るという考え方をすることもあるのではないでしょうか。
学校内でのいじめが陰湿、悪質であればあるほど、加害者側も、外に発覚することを避けようと考えて行動に及んでいるケースもあり、より外からはわかりにくくなっているはず。
でも、やっぱり、事後的に振り返ると、両親が子どもをケアする環境を整えられなかったことが過失として大きく評価されてしまうのか?

これは完全に気持ちの話になりますが、刑事手続きでも裁判前の話し合いでも晴らすことのできなかった子どもの無念や両親の悲しみを少しでも晴らすため、何があったのか、事実を明らかにしようと決意して起こした裁判において、家庭環境を整えられなかったことを過失として大きく評価されたご遺族の気持ちを考えると、その裁判所の評価はどれほど胸に深く刺さってしまうだろうかと思えてなりません。
悪質極まりないいじめにより、たったの10数年しか生きていない子どもが自ら命を絶つところまで追い込まれてしまったこと、その事実を背負いながら生きているご遺族のことを考えると、私は、少し感情的になっているかもしれません。

弁護士として直面する問題のひとつである過失相殺。
何が損害の公平な分担になるのか、ひとつひとつの事件を通じて冷静に、真摯に考えていかなければなりません。

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