リーガルエッセイ

公開 2020.12.14 更新 2021.07.18

判決延期のために偽の診断書を提出した被告人を逮捕

記事を執筆した弁護士
Authense法律事務所
弁護士 
(第二東京弁護士会)
慶應義塾大学法学部法律学科卒業。司法試験に合格後、検察官任官。約6年間にわたり、東京地検、大阪地検、千葉地検、静岡地検などで捜査、公判を数多く担当。検察官退官後は、弁護士にキャリアチェンジ。現在は、刑事事件、離婚等家事事件、一般民事事件を担当するとともに、上場会社の社外役員を務める。令和2年3月には、CFE(公認不正検査士)に認定。メディア取材にも積極的に対応している。
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裁判に偽の文書を提出

先日、ある詐欺事件の判決期日を延期させるために、偽の診断書を提出したとして、検察庁が、詐欺の被告人を変造有印私文書行使罪で逮捕したと報じられました。
報道によると、この被告人は、在宅のまま起訴されたのか、起訴後保釈されたのかわかりません。
ともかく、身柄拘束を受けていない状態で詐欺罪の裁判中だったところ、論告求刑も終わり、判決期日を指定されていたそうなのですが、その判決期日の前日に、医師の署名が入った診断書に手を加え「出頭できない」などという内容に書き換えてしまい、これを何も知らない弁護人を通じて裁判所に提出した疑いがあるとのこと。
延期された後の期日にもこの被告人は出頭しなかったと報じられています。

前提として、「偽造」という言葉は聞いたことがあるけど、「変造」ってなに?と思うかたもいるかもしれません。
変造というのは、文書の名義人でない人が、勝手に、すでに存在している真正な文書の内容を改ざんすること。
文書が別物になってしまうような本質的な部分を改ざんした場合には、変造ではなく、偽造にあたるとされています。
今回、裁判所に提出された診断書が、もともとどのような内容だったのか、そしてそこにどのような改ざんが行われたのか、改ざん前後でどのような違いが生じたか、ということを見比べてみないと正確なことはいえませんが、変造で逮捕されたということは、おそらく、もともとは、診断書に、被告人の病状について何らかの記載があったところ、その提出だけでは、判決期日を延期するには効果がない、よりダイレクトに「だから出頭できない」という医師による一言が欲しいと考えた被告人が、その文言を付け加えたということなのではないかと想像します。
なぜ、判決期日を延期する必要があったのか?
これも想像にはなりますが、判決で実刑判決が見込まれたのではないかと思います。
つまり、今は身柄拘束されていない状態で裁判を受けてきたけれど、実刑判決が言い渡されたら、保釈中の被告人の場合はすぐに身柄拘束されてしまうし、在宅のまま起訴された被告人であっても、判決が確定次第身柄拘束されてしまう。
少しでもその日を遅らせるために、判決期日までの期間を引き延ばそうという思いがあったのかもしれません。

この件のほかにも、最近立て続けに、このように裁判期日で偽造等した文書を提出し、これが発覚して文書偽造やその文書の行使の罪で逮捕されたという報道を見ました。
本件と同様に、刑事裁判中だった被告人が、判決期日を控え、その期日を延期するために嘘の診断書を提出して逮捕された事件もありましたし、離婚裁判の中で、市長名の意見書を偽造して、これを証拠として提出したことが発覚して逮捕された事件もありました。

裁判では、証拠がすべて。
いくら自分の思うところの真実を主張しても、「証拠がない」と言われてしまい、裁判が思うように進まず、何とかして自分に有利にならないかと思い詰め、「こんな証拠があれば形勢逆転なのに」と思うこともあるかもしれません。
また、自分の都合、仕事の都合、家族の都合、いろいろな事情があって、裁判のスケジュールがなんとか自分の希望するとおりに進まないものかと思うこともあるかもしれません。
ご自身に弁護士がついていれば、弁護士に相談する、弁護士がついていなければ、裁判所に事情を説明し相談してみるべきです。
思い通りになることばかりではありませんが、言うまでもなく、偽の文書を作り出す危険を冒すべきではありません。
もしかしたら、「一言付け加えるくらい、ばれないだろう」と思うこともあるかもしれません。
もちろん、ばれる、ばれないという話ではないのですが、ばれる可能性は極めて高いと思います。
裁判の場で提出される証拠などを目にする裁判官、検察官、弁護士は仕事として普段から多くの証拠書類を精査していますから、偽の文書を目にしたときに違和感を感じやすいと思うからです。
とはいえ、精神的に追い詰められてこのような犯行に至ってしまう人がいることも事実。
弁護士として、そもそも依頼人をそのような追い詰められた心理状態におくことのないように、そして、万一追い詰められて誘惑にかられたかたがいても、それをぎりぎりのところで止められる存在になれるよう、より一層、ご依頼者様との信頼関係を築くとともに、証拠書類を吟味する技術を磨かなければならないと思います。

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