リーガルエッセイ

公開 2020.10.09 更新 2021.08.13

池袋暴走事故 被告人が無罪主張

記事を執筆した弁護士
Authense法律事務所
弁護士 
(第二東京弁護士会)
慶應義塾大学法学部法律学科卒業。司法試験に合格後、検察官任官。約6年間にわたり、東京地検、大阪地検、千葉地検、静岡地検などで捜査、公判を数多く担当。検察官退官後は、弁護士にキャリアチェンジ。現在は、刑事事件、離婚等家事事件、一般民事事件を担当するとともに、上場会社の社外役員を務める。令和2年3月には、CFE(公認不正検査士)に認定。メディア取材にも積極的に対応している。
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昨年4月、池袋で80代男性が運転する車が赤信号の交差点に突っ込み、これにより自転車通行中の母子がお亡くなりになったという本当にいたましい事故が起きました。
この事故は、大切な二人の命が理不尽にも奪われたという結果の重大性が大きく報じられたほか、なぜこのような重大事故を起こしながら逮捕されないのかという疑問の声や高齢ドライバーの事故対策が急務であるとの声が報じられるなどし、多くの方が関心をもって見守っていたことと思います。
そして昨日、この事故に関し、車を運転していた被告人の初公判が開かれました。
被告人は、無罪主張をしたとのこと。
「アクセルを踏み続けたことはないと記憶している。車に何らかの異常が生じ暴走した」旨主張したと報じられました。

今後の裁判

被告人の主張を受け、今後、検察は、この事故の原因は、車の異常によるものではないこと、被告人がアクセルを踏み続けたことによることを証明しなければなりません。
刑事裁判では、検察官が有罪の証明をしなければならないのです。
被告人が、車の異常を証明しなければ有罪になるというわけではありません。
ですから、検察官の証明が不十分で、裁判官に、「車に異常があってこの事故が発生した可能性を否定できないな」と思わせてしまったら、無罪になってしまいます。
検察官は、車のメーカーによる鑑定結果、被告人の車に搭載されていたと報じられているレコーダー機器の分析結果、当時現場にいたかたの目撃証言や周辺の防犯カメラ映像などをもとに、被告人が運転していた車に暴走を引き起こすような異常がなかったこと、被告人がアクセルを踏み続けていたことを客観的に証明していくことになると思います。
証明の責任を負うのは検察官ですが、もちろん、弁護人も、被告人の主張を裏付けるための立証活動を行っていくはずです。
一般的に考えると、検察官が証拠として請求する鑑定結果や分析結果について、専門家の意見を聞きながらその信用性に疑問を投げかけたり、もっと積極的に、車に異常があった可能性を証言してくれる専門家を探してきて、その専門家の証人尋問を求めたりする可能性がありそうです。

「被告人は反省していない」の批判

この事件に関する報道を見ていたとき、あるコメンテーターのかたが「こんな主張をするなんて、反省のかけらも感じられない。このことは、量刑にも影響しそうですね」という意見をおっしゃっているのを聞きました。
正直なところ、ご遺族のお気持ちを考えると、そのようなお気持ちになるのはもっともだと思うし、それがきっと多くのかたの率直な思いだろうなと思います。
私もそのような気持ち、否定できません。
でも、反省しているのかどうか、という点は、少なくとも今の時点では、何とも言えないかもしれません。
反省していれば、それは自然と言動となって表れるはずだという意見もあると思いますし、私もそう思いますが、ただ、今回の被告人についてどうなのか、というところは、裁判が始まったばかりの今、まだなんともいえないのかなと思います。
今後の裁判での供述にも注目する必要がありそうです。

また、被告人の主張が、量刑にとって不利に働くか、という点についても、一概には、そうはいえないなと思います。
そもそも、本件では、まだ証拠により公訴事実が証明されるかどうかわからない段階です。
仮に、証拠により公訴事実が認められたとすると、たしかに、被告人の供述はこれに反することになります。
自分のしたことについて誰が聞いても不合理な話をしているとき、それは、自分の罪と真摯に向き合っていない、反省の気持ちがない、と評価されて、不利な情状として考慮されることはあります。
でも、被告人の年齢も影響し、当時の記憶があいまいになっていて、「アクセルを踏み続けた記憶がない」という事情がもしあったとしたら、被告人が「アクセルを踏み続けた記憶がない」と供述することが明らかに不合理だとまでは言い切れないという見方もあり得るだろうなと思います。

裁判はまだ始まったばかり。
今回の被告人の無罪主張を受け、今後の双方の立証活動を考えると判決に至るまでには時間がかかることが見込まれます。
お亡くなりになったお二人とそのご遺族のお気持ちを考えると、どうかこの裁判で真実が早く明らかになるようにと願うばかりです。

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