リーガルエッセイ

公開 2020.09.04 更新 2021.08.13

「口内丼」論争

記事を執筆した弁護士
Authense法律事務所
弁護士 
(第二東京弁護士会)
慶應義塾大学法学部法律学科卒業。司法試験に合格後、検察官任官。約6年間にわたり、東京地検、大阪地検、千葉地検、静岡地検などで捜査、公判を数多く担当。検察官退官後は、弁護士にキャリアチェンジ。現在は、刑事事件、離婚等家事事件、一般民事事件を担当するとともに、上場会社の社外役員を務める。令和2年3月には、CFE(公認不正検査士)に認定。メディア取材にも積極的に対応している。
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先日、朝の情報番組で「口内丼」なる言葉を目にしました。
みなさん、ご存じでしたか?
ネット上の掲示板で、ある女性が投稿した内容がちょっとした論争を巻き起こしているようなのです。
投稿というのが、その女性の夫の食事の食べ方について。
女性の作った食事を、夫が、複数のおかず、ご飯を一度に口に入れて食べることについて、女性が、「どうして口内丼にするの?ちゃんと三角食べをしてほしい」という旨伝えたら、これに対し、夫が「何が悪いのか?」と反論したというエピソードが書かれたものが番組で取り上げられていたのです。
これに対する街の声、ネット上で寄せられたコメントなどが紹介されていたのですが、投稿女性側に共感する声として「頑張って作ったものを単体で食べてほしかったのに、口の中で一緒にされちゃうとがっかりして、一生懸命作った意味がないと思う」「味わってない」「私って食事を作るだけの存在なんじゃないかとがっかりする」などというものがあり、男性側に共感する声として「食べれば同じじゃないか」「好きなように食べさせてくれよ。せっかくのおいしい食事がまずくなる」「こうやって食べてくれというリクエストがあるなら、最初にそう言ってくれよ」などというものがありました。
この論争、新型コロナウイルス感染に関するニュースや総裁選に関するニュースの箸休めのような流れで、心なしかコメンテーターの方たちの表情も和らいで見えるちょっとおもしろい話として取り上げられていたように感じたのですが、私は、このちょっとした論争をきっかけに考えるべきことがありそうだなと受け止めました。

どう考えるか?

女性側に共感する声を見ていると、単に、「三角食べをしてほしい」ではなくて、根本に「私が頑張って作った食事をありがたいという気持ちで食べているのか?」「ちゃんと味わっているのか?」「そもそも私の存在を大事だと思っているのか?」という思いがあるように感じます。
でも、男性側に共感する声を見ていると、表面的に言われた言葉をそのまま受け止め、「なんで食べ方でそこまで言われるのか」「そもそも俺のやることは何もかも気に入らないのだろう」という思いになってしまっていているように感じられます。
お互いの思いが行き違ってしまっているように見えませんか?

口内丼論争のことだけを取り上げると、ちょっとした行き違いと見えるかもしれませんが、実は、このような行き違いは、積もり積もって、夫婦間の離婚の原因になりかねない事態に発展することもあるのではないかなと思います。
というのも、私が、普段、離婚をお考えになっているかたから相談を受けていると、どうして離婚を考えるようになったかというお話の中で圧倒的に多いのが「価値観の相違です」という言葉なんです。
そして、その内容を具体的にお伺いすると、子どもの教育方針だったり、相手のご両親や親戚との付き合い方だったりに加え、「自分が大事にされていない。配偶者に対する愛情のかけかたについて意見が合わない」という思いがあったりするのです。
さらに、「なぜ、自分に対する相手の愛情、思いに不満を感じるようになったのか」というところを掘り下げて伺っていくと、まさに、今回論争になったエピソードのようなものがそれはそれは山ほど語られるということがあるのです。
私は、そんなとき、日常の行き違いが生じそうになったときに、お互いが、その都度、今とちょっと違った対応をしていれば、行き違いが積もり積もって価値観の相違と言われるところまでいかなかったということもあるのではないかなと思います。
もちろん、中には、そういった日々の行き違いの修復では修復しきれない価値観の相違もあるということは間違いないと思うのですが、少なくとも、少し見方や対応を変えるだけで避けられる行き違いもあるように感じ、この機会に、ちょっと考えてみたいと思います。

ひとつの案

私は、パートナーシップというものがもっとも苦手分野なので、自分の経験で語れないところではあるのですが、そして、そもそも論争の前提となる「複数のおかず」を作る能力がないため、こういった状況に直面すらしないのだと思うのですが、仮に自分に食事を作るパートナーがいて、そして、仮に自分がたくさんのおかずを作り食卓に並べたとして、と二重の仮定の上に、自分ならどうするか?ということをちょっと考えてみました。
ぜひ、この機会に考えてみるためのたたき台として見て頂けたらと思います。
なお、以下、法律は全く関係のない話になります。
まず、私が女性の立場だったら、パートナーが、自分ががんばって作ったたくさんのおかずを、ご飯をともに一気に口の中に入れてもぐもぐ頬張ったのを見たら、「ひとつひとつ口に入れて順番に食べるなんてことがもどかしくなるくらい私の作ったおかずのすべてがおいしそうに見えてしまったのね!」と歓喜し、「おいしく食べてくれてうれしい!やった、大成功!」くらいのことを言ってしまいそうです。
もし、そのおかずの中に、これは絶対に最初に単体で食べてほしいというものがあったら、「これは初挑戦の自信作だから、お願いだから、最初にこれだけで食べてみて!絶対おいしいから!」と言います。
どうしても、三角食べをしてほしいのだったら、そのための戦略を練るかもしれません。
たとえば、パートナーがお休みの日に食事作りを交替してもらい、パートナーが作った食事を、きれいに三角食べしながら、ひとつひとつ、「これはこういうところがすごくおいしい!」「これの後でこれを食べると、食感の違い、味の違いが際立って最高!」などとコメントしていくのです。これをなんどか繰り返していると、もしかしたら、パートナーも、そうやって食べてもらえるうれしさを実感して、自分も同じようにしてみようかなと思ってくれそうな気がしませんか?
それでもやっぱり三角食べをしてくれないし、「こんなに頑張って作ったのに」という思いが拭い去れなければ、私は、そもそも、頑張るのを手放します。
そうすれば、頑張ってやったのに、という不満は出てこない気がしませんか?
頑張って作らずに、いっそのこと丼ぶりにしてしまうということで自分の不満を解消でき、解決できそうな気がします。

また、もうひとつ大事なのが食事を出された側の対応かなと思うのです。
今回問題となっていた口内丼のエピソードでも、たくさんのおかずが並べられた食卓についたとき、食事を頂く側が「すごい!こんなにたくさんおかずを作ってくれたんだね。何から食べたらいいかわからない!おいしそう!ありがとう」の言葉があったとしたら、その後、おかずとご飯をすべて口に入れてもぐもぐしていても、食事を作ったかたは、「口内丼しないで!」という反応にはならなかったのではないかなと思うのです。
もしかしたら、たくさんのおかずが並べられている食事が当たり前だというぜいたくな日常に慣れてしまっているのかもしれませんが、そこは、自分が食事作りをしなくても食事が出てくるというありがたさ、しかもおかずが何品も出てくるというありがたさを改めて認識する必要があって、それによって、当たり前だと思っていた食卓の見え方も違ってくるのかなと思いませんか?
もし、食事を作ったかたが、それでも「口内丼にするなんて…」という気持ちになったのだとしたら、そこは、「好きに食べさせてくれ」の前に、「作った立場からするとそういう気持ちになるっていうのもわかるな」という相手の立場に立った思いを一呼吸はさんだ上で、「全部おいしそうで、悠長に三角食べしている余裕がなかった。おいしくて三角食べできないから、頼むからいっぺんに食べさせて」と懇願したら、また相手の受け止め方もちょっと違いそうな気がしませんか?
さらに言えば、とりあえず、「わかった。今回は食事を作ってくれたあなたに食べ方のルールを決める権利があるってことにしよう!」として三角食べをしてみたら、思いがけず、いつもより食事がおいしく感じられたり、食べ過ぎを防げたりといったいいことがあるかもしれません。

すべて体験に基づく話でないので、こんな頭の中で考えたようには現実はいかないのだよ、という声も聞こえてきそうです。
でも、普段、離婚をお考えになって来所されるかたからお話を伺っていて、今回の口内丼論争をきっかけに、日常の場面で相手の言動への見方、対応の仕方を少し変えるだけで避けられる問題もあるのではないかなと感じ、ついつい熱をこめてしまいました。
食卓に子どもも一緒にいたら、と想像すると、子どもも笑顔で囲める食卓にするには、という戦略をお互い考えることはとても大事なことではないかなと思います。

離婚のご相談にいらしたお客様とは、こんなことも話題にしながら、お客様はどうして離婚したいと思っているのか、そのお気持ちの根底にはどのような思いがあるのか、というところを丁寧に掘り下げていきます。
その過程で、お客様が「愛情不足」と思っているその捉え方は、果たして見方を変えることで変わりそうなのか、それとも、やはり難しいのかということも考えます。
そして、そのような掘り下げの結果、やはり離婚したいという気持ちをご自身で確認していただいた上で、すっきりした気持ちで自ら決断し、目標に向かって一緒に進んでいきます。
離婚に関しご不安があるかたは、お気軽に弁護士にご相談ください。

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