リーガルエッセイ

公開 2020.09.01 更新 2021.08.13

無銭飲食で逮捕 「食い逃げするつもりはありませんでした」は通用する?

記事を執筆した弁護士
Authense法律事務所
弁護士 
(第二東京弁護士会)
慶應義塾大学法学部法律学科卒業。司法試験に合格後、検察官任官。約6年間にわたり、東京地検、大阪地検、千葉地検、静岡地検などで捜査、公判を数多く担当。検察官退官後は、弁護士にキャリアチェンジ。現在は、刑事事件、離婚等家事事件、一般民事事件を担当するとともに、上場会社の社外役員を務める。令和2年3月には、CFE(公認不正検査士)に認定。メディア取材にも積極的に対応している。
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先日、居酒屋で3500円分を無銭飲食したとして男性が現行犯逮捕されたと報じられました。
私が見た報道では、何の罪で逮捕されたかということは書かれていませんでしたが、無銭飲食をしたとして逮捕されたとしたら、詐欺罪の被疑事実での逮捕であるはずです。
報道によると、男性は「お金を払う気はあった」と供述しているとのこと。
無銭飲食として詐欺罪が成立するのは、主に、注文の段階で、提供される料理や飲み物の代金を払うつもりも、払う資力もないのに、これらがあるかのように装ってお店の人をだまし、「この人は、ちゃんと代金を払ってくれるな」と信じさせて料理等を提供させたというケースです。
そうなると、本人にお金を払うつもりがあったと言うなら、詐欺罪は成立しないのではないかと思うかたもいるかもしれません。
でも、払うつもりがあったかどうかは、本人の供述だけで判断されるわけではありません。
たとえば、所持金なし、クレジットカードなし、貯金なし、キャッシュカードなしという人が入店し、「お金を払うつもりはあったんですよ。食い逃げするつもりなんてありませんでした」と供述したとして、「その状態で払うつもりがあったなんてうそでしょう」となりますよね。
このようなとき、「いえいえ、その場で払うことができなくても踏み倒す気なんてなくて、今日は払えないけど、少しずつお金を貯めて払っていくつもりだったんですよ。だから支払うつもりだったといえるでしょう」という人もいるかもしれません。
たしかに、注文の段階で、そのような支払い計画だということを店の人に伝え、「それでもいいですよ」と許可を頂いたなら別です。
でも、そんなこと言わないですよね。
そして、何も言わなかったら、当然、店の人は、食事が終わったら、代金を払うつもりだろうと信じますよね。
もし、自分が、「自分は今日はお金を持っていないから払うことはできませんが、お金をためて少しずつでもお金を払うつもりはありますからね」と言ったら、お店の人は食事を提供してくれないだろうとわかっているはずです。
本当のことを言えば食事を出してもらえない状況で、そのことを隠して、ちゃんと通常どおり払うと見せかけて注文し、食事等の提供を受けたらやっぱり詐欺罪が成立し得ます。

食べた後でお金がないことに気付いたら?

私は、もう2年くらい前のことになりますが、大好きなタイ料理のお店に一人でランチでお邪魔したとき、食べた後、レジで会計しようとお財布を見たら現金が500円くらいしか入っていなくて、慌てた経験があります。
カードで払おうとしたらカードでの支払いはできないとのこと。
そのお店は幸い行きつけのお店で、お店のかたは私の名前も知っていたこともあり、笑いながら「気にしないで。お時間あるときで結構ですよ」と言ってくださったのですが、当然そうはいかないので、お財布に入っていた500円とその日着ていたカーディガンを差し出し、「今、自宅に戻って5分でお金を持って戻ってきますから、それまでこれを預かっていてもらえますか?」とお伝えし(500円とカーディガンが一応担保のつもりでした…)、自宅に走って戻り、お支払いを済ませたということがありました。

みなさんも、こんなひやっとする経験ありませんか?
そのような経験がないかたのほうが多いのかもしれませんが、万一、このような場面に直面してしまったときは、ご自身の身分証などを見せたり、連絡先などを伝えた上で、近くのATMでお金をおろしてすぐにお支払いをするということが多いのではないかと思います。
このように、たとえば、入店当初は十分な所持金があると思っていたのに、飲食後、所持金不足に気付いたとします。
ここで、代金を踏み倒そうと企て、本当はお金を払うつもりなどないのに、「お金を忘れてきたことに気付きました。すぐとってきますのでお店をいったんでます」と言って、お店の人にそのように信じさせ、そのまま逃げてしまったら、そのような行為は詐欺罪にあたります。

詐欺罪は、本当は〇〇しようと企てているのに、~とだます行為をする、これによって相手が~と信じる、信じた結果財物などを交付するという一連のプロセスを経て成立します。
本人の内心や被害者の内心を単に供述を得るだけでなく客観面からも推認していく必要があり、捜査は慎重に行われます。
今後の捜査に注目していきます。

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