リーガルエッセイ

公開 2020.08.24 更新 2021.08.13

名誉感情を侵害されたとして訴訟提起

記事を執筆した弁護士
Authense法律事務所
弁護士 
(第二東京弁護士会)
慶應義塾大学法学部法律学科卒業。司法試験に合格後、検察官任官。約6年間にわたり、東京地検、大阪地検、千葉地検、静岡地検などで捜査、公判を数多く担当。検察官退官後は、弁護士にキャリアチェンジ。現在は、刑事事件、離婚等家事事件、一般民事事件を担当するとともに、上場会社の社外役員を務める。令和2年3月には、CFE(公認不正検査士)に認定。メディア取材にも積極的に対応している。
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先日、ジャーナリストの女性が、国会議員の女性に対し、慰謝料などを請求する裁判を起こしたと報じられました。
報道によれば、この国会議員の女性が、Twitter上の、ジャーナリストの女性を誹謗中傷する複数の投稿に「いいね」を押したことが、ジャーナリストの女性の名誉感情を侵害する不法行為となるとしての請求であるとのこと。
誹謗中傷ツイートに「いいね」をしたことを問題にしているという意味でも、今後どのような主張、反論がされ、最終的にどのような判断が下されるのか注目の集まるところだと思いますが、今回は、「名誉感情の侵害」という部分を切り取ってとりあげてみます。

名誉毀損と名誉感情の侵害

SNS上での誹謗中傷被害に遭ったというとき、誹謗中傷行為が名誉毀損罪に該当するとして刑事告訴するという話はよく聞きます。
この「名誉毀損」と今回報じられた「名誉感情の侵害」というものは、名誉を傷つけられたことに関するものではありますが、正確に言うと意味が違います。
名誉毀損というのは、事実を指摘して認識可能な状態に置くことで人の社会的評価を低下させること。
名誉感情の侵害というのは、人が自分の人格を大切に思う気持ち、つまり自尊心を傷つけること。社会的な評価とは関係ありません。

刑法上の名誉毀損罪が成立するのは、事実を適示して社会的評価を低下させる名誉毀損があったときのみで、社会的評価は低下するおそれはないけど自尊心が傷つけられた、ということで名誉棄損罪は成立しません。
でも、名誉毀損の場合も、名誉感情の侵害の場合も、どちらも民事上の不法行為にはあたり得るため、不法行為に基づく損害賠償請求は認められる可能性があります。

自尊心を傷つけてしまうと不法行為として損害賠償請求される、となることについて、「自尊心」というとてもあいまいなものを保護の対象とすることで、その侵害行為が不当に広がってしまってしまうのではないか、と思うかたもいるかもしれません。
たとえば、Aさんに対し、BさんとCさんがそれぞれ「おまえ、バカだな」と同じ言葉を言ったとしても、Bさんから言われたその言葉は、Aさんにとって笑って聞き流せる言葉だとしても、Cさんから言われた同じ言葉によってAさんの自尊心が傷つけられるということはありそうですよね。
Aさんと、Bさん、Cさんとの関係性、AさんのBさん、Cさんに持っている感情、言われた状況などによって、同じ言葉なのにAさんに与える影響が違うということはあると思います。
そんなよくわからない基準で不法行為になったりならなかったりというのはおかしいのではないかともいえそうです。
裁判例では、Aさんが「あの人の言葉で自尊心を傷つけられた」と言えば自動的に名誉感情の侵害があったと認められるわけではなく、社会通念上許される限度を超える侮辱行為であると認められる場合に初めて人格的利益の侵害が認められ得るとされています。
傷ついたといえばなんでもかんでも名誉感情の侵害となるわけではないけれど、ではどのようなものなら侵害となるのか、という基準としては、「社会通念」というあいまいな基準を持ち出さざるを得ず、結局は、事案に応じて個別の事情を総合考慮して検討していくことになるでしょう。

今後の裁判でも、この名誉感情の侵害があったと認められるかが争点のひとつになってくる可能性があります。
裁判のゆくえに注目していきます。

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