
- 元検事弁護士 (第二東京弁護士会所属)
- 高橋 麻理
慶應義塾大学法学部法律学科卒業。2002年検察官任官。東京地検、大阪地検などで勤務後、2011年弁護士登録。元検察官の経験を生かして、刑事分野の事件を指導、監督。犯罪被害者支援にも真摯に取り組んでいる。
慶應義塾大学法学部法律学科卒業。2002年検察官任官。東京地検、大阪地検などで勤務後、2011年弁護士登録。元検察官の経験を生かして、刑事分野の事件を指導、監督。犯罪被害者支援にも真摯に取り組んでいる。
元タレントで、かつて、薬物事件で実刑判決を受けたこともある男性が、覚せい剤取締法違反(所持)の疑いで逮捕されたことが報道されました。
報道によると、宿泊施設の従業員が、施設内の部屋から「変な忘れ物」を発見し、警察に通報したとのこと。その物を警察が調べたところ、覚せい剤だということが判明し、さらに、その忘れ物をした人物を調べたところ、宿泊施設の宿泊者名簿から元タレント男性が浮上したとのことです。
報道されているのは、男性が覚せい剤所持の被疑事実で逮捕されたということと上記経緯のみで、事実、どのようなことがあったのかは今後の捜査により明らかになると思いますが、この報道を目にしたとき、「覚せい剤が部屋から発見されたのが8月というのに、なぜ2か月以上も経った今、逮捕になるのだろう?」と思われませんでしたか?
もちろん、事案によっていろいろな事情があると思いますので、本件で実際にどのような事情があったかはわかりません。
ただ、一般論で考えますと、現に誰もいない宿泊施設から覚せい剤が発見されたという場合は、たとえば、警察官が職務質問をしたときにその場で覚せい剤が見つかったというときと状況は全く違っており、逮捕に至るまでにいろいろとなすべき捜査があるだろうと思います。
今回、覚せい剤が発見された状況は詳しくわかりませんが、たとえば、宿泊施設で、そこに宿泊している人がすでに退室した後、部屋を清掃していた従業員が部屋の中におかしなものを見つけ、調べたところそれが覚せい剤だったという場合、その物がだれのものかを突き止める必要があります。
そのとき、一番最初に調べるのは、その部屋に直前まで滞在していたのはだれか?ということになるでしょう。
ただ、直前まで滞在していた人を突き止めたとしても、本当にその人の持ち物かどうかを特定するには、さらにハードルがあると思います。
すなわち、たまたま、その日に従業員が発見したというだけで、実は、もっと前からその部屋に覚せい剤は置かれていた可能性がないか?ということも捜査する必要があるでしょう。
具体的には、覚せい剤が、部屋のどのような場所に置かれていたのか?清掃に入れば、必ず目に留まるような場所にあったのであり、気づかずに放置されてしまうことなどない場所だったか?清掃の担当従業員のかたからの事情聴取も必要になるでしょう。
それ以外にも、その部屋に最後に滞在していたであろう人が退室した後、その部屋に、その他第三者が立ち入る可能性がなかったのか?という点も捜査の必要があるでしょう。
覚せい剤は通常ビニール製の小さな袋に入っていることが多いでしょうから、その袋から指紋が検出されるかの捜査も必要となるでしょう。
さらには、このような過程で、ある人物の持ち物であろうと特定されたとして、その人物のその後の行動も調査し、覚せい剤の売人との接触について調べることで、その人物が覚せい剤と親和性のある人物かを調べる必要もあるでしょう。
一般的には、そのような捜査を尽くして逮捕状の請求を行うことが多いと考えられますので、そうなると、捜査には一定の時間が必要になり、逮捕に至るまでには数か月かかるということも十分考えられます。
今回の逮捕はどのような経緯でなされたものかはいまだ明らかになっていません。
今後の報道や警察による発表に注目が集まります。
※2019年11月6日 16:58時点での報道に基づく。